日本乳酸菌学会

会長挨拶  <  学会概要  <  HOME

会長挨拶

新会長を拝命して


日本乳酸菌学会 会長
片倉 啓雄
関西大学 化学生命工学部 教授
 

 この度、図らずも続貂の栄にあずかりました関西大学の片倉啓雄です。会長就任を打診された際、乳酸菌の研究実績に乏しい私がなぜ、と悩みましたが、多様な分野での研究・企業勤務・技術者倫理教育などの経験を活かせ、との意図であると解し、お引き受けした次第です。
 乳酸菌は、紀元前から利用されてきた微生物で、最も一般に知られている微生物です。20世後半からは、伝統的な発酵食品への利用に加えて、免疫調節や生活習慣病予防などプロバイオティクスへの展開が本格的にはじまり、今世紀に入ってからは、技術革新によって一昔前では想像もつかなかった世界が広がりつつあります。乳酸菌学会もこのような新展開に大胆かつ適切に対応し、関連分野をリードする運営が必要になります。そのために、以下の3点を基本的な考え方・方針として会長職を務めようと思います。
 
(1)異分野との共同と情報の共有
 少子高齢化に伴う医療費の増大は国の財政を圧迫しており、医療費を抑制するには健康寿命を延ばす必要があります。そのためには腸内フローラと疾病・健康の関係を理解し、それを制御することは重要な課題です。次世代型シークエンサーの利活用はもとより、身体のデータや食生活などを含むビッグデータ、人工知能なども活用した研究・開発が必要になります。しかしながら、これだけ広い知識を一人の研究者や一つの組織がもつことは困難であり、異分野との共同が必須になります。また、従来の研究の範囲においても、そのノウハウは、組織で囲い込むよりも、共有を進めた方が、長期的・戦略的な視点からみれば効率的なはずです。2021年に30周年を迎える乳酸菌学会を発展させるためには、このような状況を踏まえたうえで、本会の会員となるメリットを、見える形で示していく必要があると考えています。秋期セミナーでの新分野関連のタイムリーな企画、泊まり込みセミナーでの情報交換、さらには2021年に金沢で開催されるアジア乳酸菌学会などを通じて、これまで以上に共同と共有を進めていきたいと思います。
 
(2)データの信頼性の担保
 研究不正の防止が声高に叫ばれていますが、データの信頼性に対する日本の科学者の認識は世界から遅れており、日本からのデータが信頼されなくなる恐れさえあるのが現状です1)。NIHは「再現性を下げる人為的原因を徹底的に排除する」と宣言しています2)。また、仮説・サンプル数・統計的手法を途中で変えない、などの具体的な提言を行っており、これに対して、多くの学術雑誌が賛同・支持しています。仲間から、そして市民から信頼されることは科学者にとって何にも増して大切であり、乳酸菌学会の大会や学会誌での発表も世界標準に準拠した形3)を目指したいと考えています。
 
(3)科学者の自律とwell-beingの追及の両立
 私は技術者倫理を長く教え、研究倫理教育にも携わっていますが、最近になって以下のような考え方にたどり着きました。
 まず、法律やルールは後追いです。何度か不都合が重なったので、ここはこうしましょうよ、という申し合わせが法律やルールです。これに対して、科学者(研究者・技術者)は新規性・オリジナリティを重視し、まだわかっていないことを解明し、まだできないことを解決することを生業としています。しかし、公害や薬害をみれば明らかなように、新しい知や利便には必ず新しい不都合が伴い、それに対処できるルールは、当然、まだありません。新たに生じる不都合を予測し、それに対処すべきは、それに対して最も知識と経験のある科学者自身であることは言うまでもありません。ルールがないからやってよい、ではなく、ルールがないからこそ自律しなければならないのです。
 プロバイオティクス、プレバイオティクス、これらを統合したシンバイオティクスには今後、大きな発展が期待されます。また、腸内フローラの制御は健康寿命の増進に大いに貢献すると期待されます。しかし、未知の領域に踏みこむのですから、必ず新たな不都合も伴うはずです。それを予知し、必要に応じて適切な指針や対策を提示し、自律することは、乳酸菌学会の使命であると思います。
 1998年に米国心理学会の会長に就任したM. Seligmanは、well-being(幸せ)を科学として研究することを提唱しました。その研究成果として、well-beingは測定可能であり、
  Positive emotion(楽しく過ごす幸せ)、
  Engagement(没頭する幸せ)、
  Relationship(友好関係による幸せ)、
  Meaning(自分の強みを活かして価値を認めるものに貢献する幸せ)、
  Achievement(成し遂げる幸せ)
の5つの要素で構成されること、そして、これらのうち最も重要なものがMeaningであり、高い幸福度を得るには必須の要素であることが明らかにされています。私たちがその専門知識と経験を活かして、社会の安全・安心・健康・福利という誰もが価値を認めるものに貢献することがMeaningであることは論を待ちません。学会員が、個人や所属組織の利害を超えて協力し、これらの価値の向上に貢献すれば、それは学会員自身のwell-beingにつながります。そして、気づきと工夫があれば、科学者の自律とwell-beingの追及は両立でき、さらには協奏できるはずです。
 
 これらに関する具体的な活動については、賢者諸兄からのご提案、ご助言を戴き、進めたいと考えております。また、2021年のアジア乳酸菌学会は、上述の基本方針をアジアの研究者にも理解して頂くことを含め、日本の乳酸菌研究をアピールする場にしたいと存じますので、何卒ご協力下さいますよう、お願い申し上げます。
 
 
1) https://www.sciencemag.org/news/2018/08/researcher-center-epic-fraud-remains-enigma-those-who-exposed-him
2) https://www.nih.gov/research-training/rigor-reproducibility/principles-guidelines-reporting-preclinical-research
3) https://www.amed.go.jp/page_000001_00542.html
 
 

ページTOPへ